かつては神戸の奥座敷と呼ばれた丸山エリアのいま

長田区の北側に位置する丸山エリアは山並みに沿ってすり鉢状の斜面に住宅が並び、路地や急坂も多いのが特徴だ。昭和初期の頃は「神戸の奥座敷」と呼ばれ、緑豊かな別荘地として人気で遊園地や料理旅館などもあったという。戦後は造船関係の仕事や町工場のある南側へ通う人たちが多く住み、賑わいをみせていた。

(山の斜面に沿って住宅が立ち並ぶ)

それから時が経ち、ここも全国の郊外エリアと同じく高齢化や過疎化が進み、2015年の国勢調査によると丸山地区の人口は1万457人と、20年前から5375人(34%)も減少している。それにともない空き家や放置された廃屋も増えている。

一般的には空き家が増えてくると不動産価格が下落したり、賃貸物件の賃料も安くなる。その影響からか治安が悪化するケースもあり、(実際の治安の良し悪しには関わらず)そのイメージによってより人が集まらないという悪循環が生まれてしまう。この丸山エリアも同じような状況に陥っている。

そういったことは往々にして会話などでネガティブな面として取り上げられるが、視点を変えるとそうでもない。丸山エリアにはその歴史的背景からかDIYやリノベーションの素材となるような趣のある建物も残っていて、そういった物件がとにかく安く買えるチャンスがあるのだ。

駅近の集落で吹きはじめた風

(丸山駅前)

神戸電鉄線丸山駅を降り、改札出てすぐの路地を入っていくと崖地に沿って住居が数棟建つ集落が現れる。斜面を降りながら進んでいくと、目に入る建物のほとんどは老朽化が進み廃屋となっていて、住人もほとんどいないようだ。人の気配がないだけに路地を進んでいくのをためらう人もいるかもしれない。ところが、この集落の中で新しい風が吹き始めていると聞き取材に伺った。

(駅近にこんな集落があるなんて)
(路地沿いに空き家や廃屋が並ぶ)

アーティストや作る人のための場所(村)を目指して

崖に沿って降りながら集落に入る。路地沿いに並ぶいくつかの空き家と廃屋を通り過ぎた先、集落の北側エリアがその場所ということだった。訪れた時は複数件ある物件のひとつで改修作業が行われていた。

ここで廃屋や古家の改修作業を行なっているのは西村周治さんたち。西村さんは市内の廃屋を改修して自ら住んだり、シェアハウスにして運営するなどの活動をしている。(以前の取材記事はこちら

(西村周治さん)

西村さん曰く、「この集落はアーティストの人たちが住みながら改修したり、創作活動が行える場所(村)になればいいと思っている。」とのこと。

現在のプロジェクト参加者(西村さん曰く「村人」)たちは、主に兵庫区和田岬でカルチア食堂を運営している仲島義人さん、会社員の平井陽さん(仲島さん、平井さんの記事はこちら)、同じく兵庫区の建築事務所に勤務しながら丸山に住んでいる上野天陽さん、秋田県から移住予定のアーティスト中村邦生さんらがいる。

彼らによって空き家・廃屋群はそれぞれの住居やアトリエ、コミニュティスペースなどに生まれ変わる予定だ。

有機的に集まってDIY

参加者たちは仕事の合間に集まって作業を行なっている。取材当日もこの集落に新たに居住予定のアーティストがやってきて、居住予定の物件の改修作業や片付けをしていた。物件の改修には解体で出た廃材を再利用しながら、基本的にDIYで作業をしている。

(みんなで相談しながら作業を進める、左から西村さん、仲島さん、上野さん)

(解体した材料も再利用)
(自分たちで解体した壁)
(つくることが好きな人たちが集まっている)

それぞれが自分の都合の良い時に集まって作業を進めている。彼らの活動に興味を持った人も見学がてら作業に参加したり、作業途中の現場で撮影が行われたりと改修作業中も自由な空気感がある。

取材を終えて

人が少なくなり、空き家ばかりの小さな集落が新たな場所に生まれ変わろうとしている。取材時点ではまだまだ始まったばかり、これからここにどんな風景が立ち上がってくるのだろうか。

(プロジェクトは始まったばかり)

「何かを楽しんでいるところに熱量は集まるし、楽しそうなところに人は集まってくる。」といった言葉をどこかで聞いたことがあるが、ここがまさにそうなのだと感じた。空き家の再活用の事例としては、一般的には不人気なエリア、改修も難しいような廃屋群…と、なかなかチャレンジするにはハードルが高い。だからこそ大きな変化を生み出せるポテンシャルも同時に感じる。

長田区の北で動き始めたこのプロジェクト、もし興味がある人は一度コンタクトをとってみてはどうだろう。(まだまだ村人募集中とのこと。)