ビルを購入?それは今や決して一部の富裕層や“人生を賭けた大チャレンジ”でもないようだ。兵庫区の老舗居酒屋があった古ビルを普通に働く会社員が購入・改装・賃貸し、自由に楽しむことができている。そんな事例をお届けすべくお話を伺った。

(平井さんが購入した通称「ヤスダヤビル」)

自由に改装できる古ビルをワンルーム並みの価格で購入

平井陽さんは、建設会社に勤めるサラリーマンだ。以前まで兵庫区の和田岬に住んでいた。(当WEBサイトでは過去に仲島義人さんとの改装活動を取材している(記事はこちら))和田岬で仲間たちと週末を中心にDIYで「カルチア食堂」を作り、その隣のビルも改装しながら活動していた。それがひと段落し新たに自由に改装できる物件を探していたところ、2017年に兵庫区の西出町にある老舗居酒屋が閉店、その店舗が入っていた築50数年の中古ビルを紹介される。

平井さんは「賃貸では制限もあって自由に改装できないところが多い。数千万円っていう話じゃなく安く購入できて、気の向くままに改装できる自分の空間が欲しかった」との考えから、一般的な中古マンションワンルーム並みの価格帯で売りに出たそのビルをローンで購入した。

賃貸で出した店舗部分を借り手と一緒にカレー屋にリノベーション

(左:1Fの元居酒屋を改装中 / 右:造作したオブジェのようなもの)

平井さんが1Fの元居酒屋部分を賃貸に出したところ、カレー屋を出店したい人が見つかった。現在はオーナーである平井さんと借り手が一緒になって「カレー屋」作りに勤しんでいる。一般的な感覚では、店を始めたい借り手が主導で進めていくところだが、取材当日は平井さんがリードして改装作業を進めていたのが印象的だった。それぞれ思うがままDIYをしていて、独特な個性ができつつあるのも面白い。

営業開始は3月中を目指しているとのことだが、オープンしてからも気になるところがあればその度に改修していくつもりだそう。「藤村さん(借り手)のスパイスカレーは本当に美味しいし、一風変わった人柄なので、すごくいいお店になると思います。」とのことで、オープン後も楽しみだ。

住居部分も住みながら“人間と同じで完成のない”DIY

(共用リビング、窓からの抜けが気に入っているとのこと)

平井さん自身も上階に住みながら、住居部分のDIYも行なっている。2階や3階を案内してもらうと、床張りも途中だったり、雨漏りもしていたりとこちらも全てが完成していない状態。いつ頃に完成予定なのかを聞いたところ「人と同じで完成はないと思っています。」とのこと。
物件自体も過去の改装によって階段が途中で切れてふさがっている箇所もあり、迷宮のような造りになっていた。また、部屋の一部は友人とシェアしているとのことだった。

(自室、壁面も造作の途中)
(剥き出しのコンクリートブロック壁に棚を増設)
(改装途中の部屋にも造作したオブジェ)

自分や仲間が楽しく遊べる空間を

アーティストや自由業のようなスタイルに見えるが、平井さんは大手企業のサラリーマンだ。平日は仕事も多忙なため、週末や夜にDIYを行なっている。建築関係の仕事なのでDIYやリノベーションも経験豊富なイメージを持っていたが、昔からやっていたわけではないとのこと。DIYのコツは2件目にあたるカルチア食堂の隣のビルを自分で改装した際、住人からのオーダーが思ったより多く、いろいろチャレンジして覚えていったとのこと。その結果、カルチア食堂も含め「結構上手くいったし、面白いな」と思うようになったという。

(話がひと段落するとビール片手に作業のつづき。)

こうした活動のきっかけは、「自分や仲間が楽しく遊べる空間や出来事が欲しかったから」という平井さん。そして「このエリアには空き物件がたくさんあって、それを安く賃貸や購入することができ、自由な表現活動を許容する余地があった。」また、「今取り組んでいるヤスダヤビルもひと段落したら、次の物件を探し始めると思います。」とのことだった。

新しい不動産投資?(取材を終えて)

平井さんは「空間を自分の思うように作りたい。」という欲求を自分の手を使って楽しんでいた。それはアーティストなどの限られた人の表現活動のようにも見えるけれど、住む場所という範囲で考えると本当は多くの人が望んでいる欲求でもあると思う。やっぱり自分が住むところは自分が気に入るようにしたい。平井さんはそれを仕事の合間にコツコツと進めている。

また、ローンで購入した物件を賃貸に出したり、友人とシェアをしたりと投資的な側面もあるところが面白い。従来の賃貸物件やマンションを購入してもそうだが、管理面や改装面で自由が制限されているところがほとんどだ。平井さんはその制限を取り払うべくこの1棟ビルを購入した。先述したが、自分が住んだり、働くところは自分が気に入るようにしたいと考える人には平井さんのような人がオーナーの物件は魅力的に映るのではないだろうか。

お話を伺い、住居はもっと自由で、気に入るまで作り直すという視点がポイントに感じた。その視点を持つことで、今までとは違った物件の見方ができそうな気がした。

取材後日 1階カレー屋さんのトライアルオープン

取材から数週間後の3月中旬、1階のカレー屋さんにてプレオープンイベントが開催され大盛況でしたと、平井さんから連絡と写真をいただきました。

(プレオープンの様子)

※記事内の文章は原文を尊重しています。