六甲山と兵庫区で始まっているローカルな山の間伐材を流通させる取り組み、最前線取材してきました。既存の仕組みを新しい仕組みとして再編集する、広義でのリノベーション事例です。

(六甲山の間伐材)

全国的に問題となっている人工林の放置。経済面や労働力不足から放置された山は土がやせ、自然災害の原因にもなっている。私たちに身近な六甲山にも同じような現状がある。
六甲山の間伐材利活用に精力的に取り組んでいるSHARE WOODSのヤマサキマサオさん。街の南側には海、背後には六甲の山並みが広がる神戸。その立地を活かし、地元で間伐材を循環させるためにはどうすればよいのか?そう想い活動していく中で、兵庫区で長年続いてきた船大工工房「マルナカ工作所」を継承し、”木を愛する人たちが木と本気で向き合えるコミュニティー”として活用することにした。ヤマサキさんいわく、マルナカ工作所ができたことで、小さな循環の仕組みができ始めたと言う。一体どういうことなのだろうか。マルナカ工作所で話を聞いた。

(左:SHARE WOODS代表のヤマサキ マサオさん 右:マルナカ工作所)

●六甲山の木の現状

(裏六甲で間伐している様子)

神戸市民に馴染みのある六甲山。ただ間伐材の現状のことに詳しい人は少ないのではないだろうか。はじめに六甲山の現状とその背景について伺った。

「まず六甲山には表六甲、裏六甲と二つの面があります。表六甲の木材は主に広葉樹が多く、コナラやシイ、クスノキなど20種類くらいあります。明治後半までは禿げ山だったのですが、造林計画を立て、約3年間かけて300万本くらい植林をした背景があります。裏六甲は民間の方たちが植えたスギ、ヒノキなどの針葉樹がメインになっています。現在はどちらも全国の人工林と同じように手入れがされないまま残っていて、間伐をしなくてはいけない状況です。裏六甲では間伐はしていたのですが、搬出コストが合わず、切り捨てたまま放置されていたことも知りました。」

なぜ切り捨てたままなのか、については「もともと六甲山自体には林業の仕組みがなく、木材を流通させる出口をつくる人がいなかったことがひとつの大きな問題でした。」とのことだった。そして、そういった現状を知ったヤマサキさんは間伐材を流通させる活動を始めていく。

「行政や民間のどちらとも協力しあって、その橋渡しになれるように活動をしています。具体的には間伐材の利活用の提案をしたり、民間の山(裏六甲)では毎年一定量の間伐材を買い続けるといったことになります。こういった活動を始めて約4年目になります。ただ木材を家具や住宅の建材として使うためには、乾燥させたり製材したりと長い時間が必要になることと、ある程度の量がないと循環していきません。そのため、木材のストックや加工、製品にするための二次加工をする場所がだんだん必要になってきました。その中で『マルナカ工作所』を借りることしたのです。」

●兵庫区が持っていた「木を活かす」インフラ

(マルナカ工作所)

マルナカ工作所はもともと兵庫区西出町にあった。ヤマサキさんはこのエリアの持っているポテンシャルに着目した。
「マルナカ工作所のあるエリア(兵庫区西出町)は、船を作る工房や、船の客室の造作家具等の修理工場などがあって、製材の職人もいれば、流通の仕組みを持っている人たちもいました。もともとインフラがあったんです。しかしそういった仕事も年々衰退し、工場自体も閉鎖していっている状況でした。」

(マルナカ工作所のあるエリア、造船関係の会社や工場などが並ぶ。)

「このインフラを六甲山の間伐材の流通や製材・加工に当てはめてみようと考えました。」

(マルナカ工作所も材のストックや加工の場所として機能した。)

「そこで、地元で長く続く製材所の『三栄』さんであったり、建築設計事務所の「ウズラボ」さん、床材に加工できる『小池加工所』さん(兵庫区)といった近所の方々と連携して、ひとつの建築物だったり、内装工事を仕上げる試みを始めました。最初の事例として、同じ兵庫区の『マツモトコーヒー』さんの移転リニューアルをお手伝いしました。」

運河がそばにあるこのエリアには海外から輸入した丸太を製材し、加工をして国内へ流通させていた歴史があり、そうした背景のもとで創業し今まで残っているのが三栄であったり、小池加工所だ。

こうして兵庫区のチームで始まった間伐材利活用のプロジェクト。ヤマサキさんは言う。「海や山に挟まれた神戸の良いところとして、六甲山で間伐した木を製材所まで持っていくのに30分くらいしかかからないんですよ」

(図/六甲山間伐材の循環の事例)

ヤマサキさんは今回のプロジェクト以前から個別には関係をしっかり築いてきた。それがひとつにつながることで、六甲山の間伐材が地元で循環するという、小さなエコシステムをつくりだせるようになったのだ。今、マルナカ工作所を中心にして、兵庫区で地元の木を活かすものづくりのネットワークが築かれつつある。

(マツモトコーヒーの移転リニューアルで店内の一部に六甲山の間伐材が使われている。)
(マルナカ工作所では引き取った建具や材も販売している。)

●より循環させていくために

この循環をより充実させ、広げていくために必要なことは何かについて聞いた。
「地元の企業の方たちに六甲山の木材を使った製品を提案すると喜んでいただけるケースが増えてきました。木材がたくさん使われる利用方法はやはり建築です。現状は構造材よりは内装や外装に使われることが多いのですが、建築関係の人や、DIYをする人たちにも六甲山の木材が選ばれることで、需要が増え、流通も活発になっていけばいいなと思います。
マルナカ工作所では、六甲山材の購入や利用の相談ができます。また、この拠点ができたことで、いろいろなところから使われなくなった木材の再利用の相談をいただくようになりました。閉店してしまった材木屋さんの廃材を引き取って、安く販売することも行っています。
地域の人たちの問題を少しでも解決できれば。関わっている事業者たちは地域に貢献しながら、利益を上げていけたら何より。そんな小規模の経済循環をつくり出したいと考えています。」

とは言え、まず重要なのは六甲山の木材がたくさん使われることです。使われるためには、知ってもらう、選んでもらう選択肢を増やすことが大切と話すヤマサキさん。マルナカ工作所では六甲山の間伐材のことをより知ってもらうためのイベントなども定期的に企画している。

●取材を終えて

もともとは造船業に由来する、兵庫区のものづくりネットワークを、六甲山の木材の加工と流通を活性化させるためのインフラとして活かすことができると考え、少しずつ仕組み化に取り組んでいるヤマサキさん。既存の仕組みを壊すのではなく、新しい仕組みとして再編集することは広義でのリノベーションと言えるのではないでしょうか。また、地元(六甲山)の間伐材を使うことは、結果的に自分たちの住む地域を守り、仕事を創り、つながりも広げることにもつながっていくのだなと感じました。

※記事内の文章は原文を尊重しています。

(画像提供:ヤマサキマサオさん / みんなでつくろう編集部)